一本、続く道をとぼとぼと歩く
心細く、恐い
山から吹く風は湿っていて冷たい
肺には濡れた緑と土の香り
歩く、歩く、歩く
何かに似ていることに気付く
なんだっけ…
この、心許なくて淋しいかんじは…
あ
そうだ、
あれだ
胎動から出て行くときの気持ち
死んでしまいそうなくらい不安で不安で
初めて自分の心臓がドクドク脈打つ音を聞いたときのような気持ち
生まれ出るまでの時間は
一生分ぐらい長いような、
そんな気持ちがした、ような気がした、ことを思い出した、ような気がした
生まれ出てみればなんてことのない、現実
ポン、とはじき出され時間が流れだす
突然目が覚めたように頭の上の街灯をぼんやり見やる
じぃ…
小さく震えるような音を鼓膜がとらえる
帰ってきたんだ、とも思う
初めて生まれてみた場所はずっと昔から知っていた
風は止み、ふっ…と温かい
生温い空気
何の意図か、知らない私は
もう別のことを考えている
次から次へと
次から次へと
異世界はもう忘れてしまった
もやもやと霧の中に消えてしまった